約 137,498 件
https://w.atwiki.jp/negiko/pages/45.html
千雨♂×ザジ その1 俺は長谷川千雨、この麻帆良学園中等部の3年だ。 表向きはPCに詳しい地味な奴で通してるが、裏ではホスト業なんかをやったりしてる。 自慢じゃないが、今じゃNo.1を張ってるほどだ。 大体どんな奴にどんな対応をすればいいのかは心得てるつもりだ、でなきゃこの歳でNo.1になんてなれやしない。 だけど、たった一人、どう対応すればいいのか皆目検討つかない奴がいる。 それは―――― 「・・・お前、いつの間にそこに座ってたんだ?」 「・・・・・・(ニコ」 ――――こいつだ。 「お前、いっつも神出鬼没だよなぁ」 「・・・・・・」 「つか、その顔のメイク、ずっとつけてる必要あんのか?」 「・・・・・・」 ・・・駄目だ、会話が成り立たない。 こいつはZazie・Rainyday(ザジ・レイニーディ)、俺と同じクラスのルームメイトだ。 曲芸手品部に入ってるとはいえ、四六時中顔にピエロのメイクをしているうえに、しゃべったところなんて他の連中より長く一緒にいる俺ですらほとんど見たことがない。 部活の宣伝なんかのときでは営業スマイルくらいはしてるらしいが、本当だかどうか。 変人ぞろいのうちのクラスでもひときわ変わってるが、余計なことは――――必要なこともだが――――しゃべらないし、なんだかんだで長い付き合いになるので、こいつには俺がホストをやってることを教えている。 まぁ、教えたときもほとんど表情を動かさなかったんだが。 だが、それ以降なんだか妙に俺について歩くようになった気はする。 部屋にいるときも何かと近づいてくるし、こんな風に外でもいつの間にか近くにいたりする。 そういうことがあんまりにも続いたので、からかうつもりで「俺に惚れたか?」と冗談で言ったんだが、何をどうやったのか突然出てきたハトの大群にボコボコにされた。 以来、何か用事が立て込んでたりしない限りはそれなりに付き合うことにしている、あんな恐怖は一度で十分だ。 「・・・・・・(ちょいちょい」 「ん? 何だ?」 何を話しても会話が途切れるので、無言でコーヒーを飲んでいた俺に、ザジが手を差し出す。 こいつが自分から何かすることってのは結構珍しい。 そういうときは大抵、何か手品をやってみせるときだ。 「・・・ハンカチ」 「ハンカチ? ここに置けってか?」 「・・・・・・(こくこく」 ほれ、案の定だ。 ただ、俺のほうからハンカチを貸し出すような手品は初めて見る。 こいつの手品の腕はたいしたものなので、新作の手品を見せてもらったときは結構驚かされる。 一体何が始まるのか、と思いつつザジの手を見つめていると、ザジはハンカチを広げ何もないことを確認させる。 いや俺のハンカチなんだから何かあったらおかしいだろう、と心の中で突っ込みつつも、一応仕掛けがないことを確認する。 するとザジはそのハンカチを右手で勢いよく一回振ると、左手で1、2、3、と指を振る。 次の瞬間、ザジの手の中からハンカチが消えた。 ちなみに、コイツが今着ているのは夏服で、袖に隠したりはもちろんできない。 「おお、どこやったんだ?」 「・・・・・・(ニコニコ」 ありふれた手品ではあったが、見事な消失っぷりに素直に感嘆する。 ザジはといえば、まさにしてやったりといった表情でニコニコしている。 だが、俺はふとあることに気づいた。 「・・・なぁ、アレ俺のハンカチなんだが」 「・・・・・・!」 「まさか、忘れてたのか?」 「・・・・・・!!!(ぶんぶん」 忘れてたな、コイツ。 まぁ別にテキトーに買ったハンカチだからひとつくらいなくなっても構わないんだが。 「あー、まあいいや。 別にたいしたもんじゃないしな。 んじゃ俺はこれで・・・うおっ?!」 そういって俺が立ち上がろうとすると、凄まじい勢いで腕を掴まれた。 何事か、と思ってザジを見てみると、かなり必死の形相でこちらを見ている。 いや、表情自体はそんなに変わらないんだが、眼に凄まじいほどの光が宿っている。 この状況で立ち去るのはマズイ、ひっじょーにマズイ。 もし立ち去れば、飛んでくる鳥はハトではすまない気がする、それこそ鷹とか鷲あたりが飛んできそうな、そんな眼だ。 「・・・な、何だ?」 恐る恐る俺が聞くと、ザジはポケットから自分のハンカチを取り出した。 そのハンカチを俺の手に巻きつけ、それを真剣な眼で見つめながら1、2、3、と再びカウントする。 そしてハンカチをはずした瞬間、俺の手の上に出現していた。 「お、おおお?!」 「・・・・・・(ぺこり」 これにはさすがに驚いた、まさか自分のハンカチがこんな風にして戻ってくるとは。 が、よくよく見るとこのハンカチ、妙な形で丸まっている。 「なぁ、何か入ってるのか? コレ」 「・・・・・・(ふるふる」 何も知らない、といいたげに首を振るザジ。 俺の気にしすぎだろうか、とにかく広げてみればわかるだろう。 そう思った俺がハンカチを広げ、その中から出てきたもの。 それは―――――――― 「んなっ、なななななぁぁぁぁぁぁ?!」 深緑のレースで縁取られた、二つの山をもつライトグリーンの布。 それは、間違いなく――――女子のブラジャーだった。 「こ、ココココレ・・・・・・・っ?!」 「・・・・・・(ちょいちょい」 怒鳴ろうにも言葉が出ない俺の叫びを聞き流し、前かがみになって視線を誘導するザジ。 怒りが収まらないながらも、ついついそっちに眼がいってしまう俺。 するとザジは夏服のボタンをいくつか外し、胸元を少し開く。 わずかに覗いた褐色の肌と胸のふくらみに思わず顔が赤くなる。 そこには、本来あるべき下着らしきものは、何もなかった。 つまり、俺が持っている、コレは―――― 「お、お前、まさかコレって――――!」 はっと我に返ってみたときには、もうザジは遠くに走り去っていた。 俺はそこに一人取り残された、ハンカチと――――多分アイツのであろう、ブラジャーを持ったまま。 「・・・どうしろってんだ、バカヤロォ――――――――!!!」 気がつくと、俺は思わずそう叫んでいた。 あの気まぐれなピエロに振り回される日々は、まだ当分続くことになりそうだ。 その2 「あ~~~~っ・・・・・・疲れた・・・・・・」 部屋のドアを開くなり飛び出た、でかいため息。 ホストなんてコトやってりゃめんどくせーことなんざ山ほどあるが、今日はいつも以上に疲れた。 なんでかって? そんなもんわかってる、今俺のポケットに入ってる・・・この、ブラジャーのせいだ。 待て、何も俺が好き好んでポケットに突っ込んだわけじゃない! 仕事してる間もずっとコレがバレやしないかとヒヤヒヤしてたせいで気疲れ倍増だしな。 で、俺にこんなもんを押しつけやがったのが・・・・・・ 「・・・・・お帰り」 この、台所で料理しながら俺を出迎えたピエロ野郎、ザジだ。 俺とこいつは中一の頃から同室なもんで、毎日の食事は二人で交代で作ることになっている。 今日は俺も仕事だったし、最初からコイツが料理当番の日だったから台所にいることは問題ない。 問題なのは、その格好だ。 黒い生地にフリルがふんだんに使われ、エプロンみたいな前掛けまで標準装備された服装。 早い話がメイド服だ。 とりあえず、今日までコイツがこんな服で台所に立ったところは見たことがない。 大抵ラフな格好にエプロンをかけてたもんだ。 だのになんでまた急にメイド服。 どこで買ったとかいつ買ったとかなんでそんなもんがいるんだとか色々突っ込みたいところが満載だが、とりあえずストレートな突っ込みにしておこう。 「・・・おう、ただいま。 で、なんだそのカッコ」 「・・・・・・普段着」 「嘘付けこのピエロっ! お前そんなカッコしてたことねぇだろ!」 「・・・今日買ったから」 「アホかぁっ!!!」 駄目だ、コイツ駄目だ。 あろうことかメイド服なんてもんを『普段着』なんていけしゃーしゃーと抜かす時点でもう激しくアウトだ。 いや、こいつは普段から顔にピエロのメイクをしてるような奴だからその辺の感覚がずれてんのか? 俺もコイツのカッコをいつも観察してるわけじゃねえから、本当はこの手の服を大量に持ってるのかもしれん。 ・・・勘弁してほしいがな。 「あー、じゃあ一応確認しよう。 お前、それが普段着だっつーなら、その手の服大量に持ってんのか?」 「・・・・・・コレが一つ目」 「どう考えても普段着じゃねぇだろソレ!」 あああ、頼む誰か助けてくれ。 初めて会ったときからよくわからん奴だったが、最近はソレに拍車がかかってやがる。 このメイド服しかり、昼間のブラジャーしかり。 一体俺はどうすりゃあいいんだよ!? 「・・・・・・・・・(てくてく」 「オイコラ?! どこ行くんだよ!」 頭を抱える俺にかまうことなく台所から出て行こうとするザジ。 勢い怒鳴ってしまったが、ザジが持っている盆を見た瞬間に後悔した。 「・・・・・・ご飯、食べないの?」 「~~~~~~!!! 食うよ、チクショウ!」 「・・・・・・?(きょとん」 足を踏み鳴らしながら食卓へ向かう俺を、ザジが不思議そうに見つめてきやがる。 自覚なしか、あーもう。 席に着いた俺の前に、ザジがてきぱきと皿を並べていく。 飯と、サラダと、ハンバーグ。 そんな手間のかかったメニューじゃないはずなんだが、なぜだか滅茶苦茶うまそうに見える。 俺が生唾を飲み込んだのと、ほぼ同時。 ぐぐぅ~~~・・・・・・ 「げっ・・・・・・」 「・・・・・・(くすくす」 俺の腹の虫が、盛大に鳴った。 しかもザジの野郎、そっぽ向いちゃいるがどう見ても笑ってやがる。 いつも無表情な奴が肩震わせたりしたら嫌でもわかるんだよこのピエロ! 「コラ待て! お前今笑っただろ!」 「・・・・・!(ぶんぶん」 「ごまかすな! ッたく・・・・・・いただきます!」 と、怒鳴るだけ怒鳴っておいてから、箸を取る。 とりあえずコイツに構ってると気が休まるときがない。 さっさと飯をかき込んで、PCでもいじってるのが得策だ。 そんなことを考えながら箸を進めていた俺だったが、ふとザジが自分の分を取ってくるでもなく、俺の横で黙って控えているのに気付いた。 「むぐ・・・どした? お前、食わねぇのか?」 何気ない、普通の質問。 だが、俺の耳に飛び込んできた返事は、普通とはかけ離れたものだった。 「・・・・・・ご主人様のお食事が終わるまで、ここでお待ちします」 「ぶっ――――――――!!!」 吹いた、思いっきり吹いた。 コイツ、こともあろうに「ご主人様」だと?! メイド服か?! メイド服着てるからなのか?! 「・・・・・・どうかしましたか、ごしゅじ」 「やめろっての! なんなんだよお前は!」 席を蹴って立ち上がる。 ブラジャーの件といい、メイド服といい、この発言といい、俺をからかって面白がってるとしか思えない。 さすがの俺も我慢の限界だ。 「これといい昼間といい、俺をからかうのがそんなに面白いか?! ふざけるのもいい加減にしろよ!」 あらん限りの声で怒鳴る、怒鳴りっぱなしだったから喉が痛い。 ザジは黙っている、いつもの無表情で。 いつも見慣れてる顔、なのに何か妙な感じだ。 それでも俺は、感情に任せて怒りをぶつけ続ける。 「昼間のことだって、お前とは長い付き合いだったから我慢したけどな、ここまで馬鹿にされちゃ黙ってられねぇんだよ、俺も!」 「・・・・・・・・・・」 うつむくザジ。 なんだよ、逃げの一手か? そんな風に目背けたりするなんて、今までなかっただろが。 卑怯だぞ、お前。 なんかよくわかんねーけど、やりづらいじゃねぇか。 「・・・・・・・から」 「あ?」 小さな声でつぶやかれた言葉。 なんて言ったんだ? 聞こえやしねぇよ。 「・・・・・・千雨に、こっち見てほしかったから」 「え――――――――」 なんだよ、ソレ。 わけわかんねー。 つまり俺はお前を見てなかったってことか? んな馬鹿な、毎日顔合わしてるしクラスの馬鹿共に比べりゃよほど意思疎通してる、はずだ。 それになんでそれがブラジャー押し付けたりメイド服着て「ご主人様」なんて言い出すようなことになるんだよ。 「・・・・・・千雨、私のこと、『ルームメイト』だと思ってても、『女の子』だとは思ってくれてない」 ぽつり、ぽつりとザジの口からこぼれてくる言葉。 こいつがこんなに饒舌なのは初めてだ。 でも、何か、それ以外のものに気圧されて、口を挟むことができない。 「・・・・・・別に、彼女にして、とか、そういうのじゃなくて・・・ただ、少しでいいから『女の子』だって意識してくれれば・・・それでよかった」 気のせいだろうか、ザジの声が震えてる気がする。 まさか、コイツの無感情っぷりはよく知ってるはずだ。 でも、否定できない。 ザジの声が――――数えるほどしかまともに聞いたことのない、澄んだ声が――――とても、思いつめているように聞こえたから。 「・・・・・・・・」 「・・・」 重い沈黙。 何を言えばいいのかわからない。 こういう状況で何を言えばいいのかなんていうのは、ホストの俺にとってはお手の物のはずだ。 なのに何も浮かんでこない。 ザジはうつむいたまま、何も言わない。 コイツが何も言わないのはいつものこと。 だけど、いつもどおりのはずのザジの姿は、なんだか滅茶苦茶儚げで、頼りなさげで――――愛おしく思えた。 「ったく、バーカ」 こつん 「・・・・・え?」 憎まれ口と一緒に、うつむいたザジの頭を小突く。 顔を上げたザジの目が、どこか潤んでるようにも見えた。 「あのな、女と思ってないんだったら、こんなもんもらって取り乱したりしねーっての」 そういいつつ、ポケットに入れていたブラジャーを取り出して、ふん、と鼻を鳴らす。 ザジの手にそれを押し込みながら、目線を合わせるためにしゃがみこむ。 「いいか? お前は俺にとって“特別”なんだよ」 「・・・・・・“特別”?」 「ああ。 俺はお前を信頼してるからホストやってることだって教えたし、飯だって一緒に食うんだ。 他の奴らなら絶対にしねぇ、お前だからするんだ」 そこまで大真面目に言って、自分が滅茶苦茶臭い台詞を吐いてることに気付いた。 なんとなく気恥ずかしくなって、合わせた目線を外しながら立ち上がる。 「――――だから! 俺はお前をなんとも思ってねぇんじゃなくて、お前が“特別”だから、別の自分みたいな面倒なもんを演じたりしねぇだけだ」 そこまで言って、見上げてくるザジから目をそらす。 あーもう、こんな臭い台詞俺のガラじゃねぇんだよ。 「・・・・・・ありがとう」 「バッカ、礼なんていわれるようなことじゃ――――――――」 そこまでしか言えなかった。 言葉を詰まらせた俺の目の前にあったのは―――――――― ザジの、見たことのないような、綺麗で、澄んだ笑顔だった。 ――――――――その少女は、『道化』として人々の前に現れる。 されど、その少年の前でのみ、少女は『道化』の仮面を外す。 そして、王子様に抱かれる『姫君』を夢見る、ひとりの少女に戻るのだった。 その3 「んあ・・・? んだよ、まだ9時じゃねえか・・・」 カーテンからこぼれた光で目を覚ます。 時計を見ればまだ9時、平日なら遅刻ギリギリで大慌てしなきゃならないが、あいにく今日は日曜だ。 昨夜は閉店まで引っ張られたせいで、布団に倒れこんだのが3時かそこらだった、つまりまだ俺は6時間しか寝ていない。 せっかくの休み、誰になんと言われようと俺は寝る、たっっっっぷりと寝させてもらう。 そう決意も新たに頭からかぶった布団を、無情にも引っぺがされた。 「・・・・・・何すんだよ、ピエロ」 「・・・・・・」 俺から至福の睡眠時間を与えてくれる布団を奪い去った張本人をジト目で睨む。 ザジは布団を抱えたまま、いつもの無表情で見つめ返してくる。 みょーな沈黙。 いや、俺が起き上がって布団を取り返すなりザジがそのまま布団をしまうなりすれば事態は変わるとは思うんだが、『先に動いたら負け』って感じの雰囲気に呑まれてにらみ合う。 が、先に折れたのは俺だった。 「お前、俺がいつ寝たか知ってるだろ? 頼むから寝かせてくれ」 「・・・・・・(いやいや」 なんでまた。 ザジがこんなマネするのは始めてなもんで、理由が皆目見当つかない。 コイツはこう見えて結構気配りのできる奴で、俺の帰りが遅かった翌日が休みのときは昼頃までゆっくり寝させてくれたもんなんだが。 「・・・・・・お買い物」 「は?」 「・・・・・・一緒に、お買い物、行こ・・・・・・?」 突然何を言い出しやがるんだコイツは。 いやそんな柄にもなく布団をぎゅっと抱いて頬染めて見つめられても。 俺があんぐりと口を開けていると、ザジは布団をぱっと消して(本人曰く“手品”だが、そんなレベルじゃない気もする)寝ている俺に詰め寄ってくる。 「・・・・・・ちょっとだけでいいから・・・お願い・・・」 「俺じゃなくてもいいじゃねーか、誰か他に・・・」 「・・・・・・千雨くらいしか、頼める人いないし、それに・・・・・・」 そういって目を伏せるザジ。 俺ぐらいしかいねーってまた寂しいなオイ。 つうか、「それに・・・」、なんだよ、そっちがメインなら早く言え。 「んだよ、それにどうしたって?」 ついイラついてちときつめな言い方になっちまったが、この場合はいいだろ。 それでもザジは何も言おうとしない。 これ以上急かしても意味はないだろうから、こっちも黙って待つ。 「・・・・・・千雨と、一回だけでいいから、デート・・・駄目・・・?」 「ぶふっ――――!? 急に何言い出しやがんだお前は!」 思わず飛び起きて後ずさる、もう“ずざざざざっ”という効果音がぴったりなほどの勢いで。 考えてもみろ、普段そんな話題はカケラも出ない奴がいきなり頬染めながら「デートしよ?」だぞ?! ビビるだろ?! 誰がどう考えても!! が、ザジは真剣そのものだ。 なんか、殺気立ってすらいるように思える。 もし下手な返事をしたら呪い殺す、それくらいの勢いのオーラが見える、気がする。 「・・・・・・今日だけ、今日だけでいいから・・・・お願い・・・・千雨」 いつもながらの無表情、しかし鬼気迫る気配に圧倒される。 これでもし断ったりしたらどうなるんだ俺は。 なんか、「ハイ、このホスト中学生が・・・ホラ、綺麗に消えました」とかって消し去られそうだ、いやマジで。 「・・・っだぁぁぁ!!! わかった、わかったよ! 今日だけだぞ!?」 結局、こうなるのかよ・・・あーあ。 まぁ命は惜しいからな、付き合ってやるさ。 「・・・・・ホント?(ぱぁっ」 「ホントだよ、ったく・・・・・支度するから待ってろ」 そういいながら慌てて目をそらす。 くそっ、あからさまに嬉しそうな顔してんじゃねえよ・・・やりにくいだろうが。 そんなことを考えながら俺がベッドから立ち上がろうとした、その瞬間。 ぎゅうっ! 「んなっ・・・・・・・」 「・・・・・・ありがと、千雨」 そのやわらかくて暖かい体で俺に抱きついたあと、ザジは自分の部屋へと戻っていった。 俺は、しばらくベッドの上で呆然としているしかなかった。 体に残る、ザジの体温を感じながら。 わずかに開いたカーテンの隙間から見える空は、雲ひとつない快晴。 道化の少女の心も、想い人という太陽に美しく照らし出されていた。
https://w.atwiki.jp/negiko/pages/110.html
まったく、今回ばかりは自分という人間にほとほと愛想が尽きるです。 なんでよりにもよって、こんなことになってしまったのでしょう? ――――ハルキを、好きになるなんて。 「夕映、このページのこことこことここのベタとトーン頼む!」 「わかりました、こっちはどうします?」 「えっとそれは・・・こことここの修正とベタで!」 「了解です」 私の返事を聞きもしないで、ハルキはさっさと次の仕事へ取り掛かっている。 ちょっとむっとしないでもないけれど、ぶっちゃけ滅茶苦茶切羽詰ってるので何も言わないでおいてあげることにする。 私は手元に置かれた何枚かの同人誌のページに眼を落とし、頼まれた箇所の仕上げを手際よく――――自分で言うのもなんだが、何度も手伝わされたせいで大分上達してしまった――――片付けていく。 いつもならのどかもここにいてハルキを手伝っている、というか手伝わされているのだが今日はいない。 私が頼んだのだ、『今日はハルキと二人きりにさせてほしい』と。 なぜなら――――今日、私は、ハルキに告白しようと思っていたから。 のどかになら聞かれていてもいい、むしろ一緒にいてくれたほうが安心できると思っていた。 だから、のどかも一緒にいるときに告白しようとした、最初は。 けれど、どうしても恥ずかしくてできなかった。 心の底から信頼している友人にさえ、自分の想いを聞かれるのが怖かった。 身勝手だな、そう心の底から思った。 だけど、それでものどかは、私のわがままを聞いてくれて、「頑張ってね」と励ましてくれた。 その優しさが凄く凄く嬉しくて、ちょっと泣いてしまった。 あののどかの優しさを無駄にしないためにも、絶対に言わなければ。 ・・・そう思っているのだが。 「ハルキ、次の仕事は?」 「えっと、これとこれとこれのゴムかけとあとこれのこことここにトーン!」 「わかりました」 ・・・言う暇がない。 この修羅場の間にこっそり暴露してしまおうと思っていたのだが、これではそんな余裕もなさそうだ。 ・・・ずるいとか言わないでください、本当に恥ずかしいんですから。 誰にともなく言い訳をしつつ、与えられた(というか押し付けられた?)仕事を黙々とこなし、さぁ次へ。 そう思った瞬間、突然伸びたハルキの手が、私の手元から原稿をひったくった。 「・・・何をするですか、ハルキ」 人に頼んでおいてそれを突然横合いから奪い取るなんて失礼にもほどがある。 さすがにむっとした表情でハルキを睨むと、ハルキは妙にあたふたしながら私の眼から原稿を隠そうとしだした。 「い、いや実はこれまだ手ぇ加えなきゃいけないとこがあってさ、仕上げしてもらってからじゃ間に合わないし悪いかなーって・・・あ、アハハ」 しどろもどろになりながらの下手な言い訳。 普段のハルキならひょいひょいとごまかすようなことでこれだけ慌てるということは・・・ 「――――エッチなシーンなわけですか」 「うっ」 想定の範囲内、というか想像通りの反応を返してくれたハルキに思わず溜息。 いや普通ならそれで取り返して当たり前だろうと思うかもしれないが、この男本気で切羽詰ると私やのどかに普通にそういうシーンの原稿を押し付けてきた前科がある。 なので私やのどかも不本意ながらそういう内容には多少の免疫ができてしまった。 ・・・・・・本当に不本意なことだ、我ながら。 「いまさら隠すようなことでもないでしょう。 今までだって何度も何度もそういうシーンの原稿を押し付けてきたくせに」 「うぐっ」 ばつの悪そうな顔をして頭を下げるハルキ。 やれやれ、と首を振りつつ、良い機会なのでまとめて愚痴をぶつけさせてもらおう。 「大体、いつもギリギリになるとわかっていながらどうしてもっと早く準備できないのですか? 勉強や図書館探検部としての活動の時間を除いても十分時間はあったはずですが」 そうだ、ハルキはいつもいつもこうなのだ。 自分のことは後回しで、他人のことにばかり気を配って。 「その原稿の件にしてもそうです、私やのどかに見られたくないのであれば自分だけで書くなり最初に別なところに置いておくなりすればいいのです。 目の前のことにばかり気とられるからそうなるです」 目の前で誰かが悩んでいたりすれば、おせっかいだとわかっていても口を出さずにはいられなくて。 「そのくせ他人のことは先々までお見通しみたいな口ぶりで励ましたりするのですから、本当にしょうがないです」 その人が踏み出すことを迷っている一歩を踏み出せるよう、たしかな言葉をかけてくれて。 「――――まったく、こんな男性を好きになった自分が不思議でしょうがないです」 いつの間にか、そんなハルキが好きになってしまっていた。 ここまで一息で言い終えて、ちらっとハルキのほうを見ると、ハルキはなにやら大口を開けてなんというか・・・間抜け面としか言いようがない顔をしている。 人の愚痴を聞いてなぜそんな顔をするのかわかりませんが・・・・・・まぁいいでしょう、言いたいことは言ってしまいましたし、続きを手伝ってあげます。 そんなことをいいながら私がまだぼーっとしているハルキの手元から原稿を奪い取り、作業を始めようとした、そのとき。 「・・・ゆ、夕映? えーっと、今言ったのって、本気?」 「・・・・・・・・・は?」 一体何を言い出すのだろう、ハルキは。 愚痴を聞いて本気かどうかなどと・・・わけがわかりません。 「愚痴に本気も何もないでしょう、アホですか貴方は」 「い、いやそこじゃなくて・・・あのその、えーっと・・・・・」 そこじゃない? じゃあどこのことだというのだろう。 自分の発言におかしいところはなかったか、今一度思い返してみる。 「い、いや、聞き間違いだったりしたらホント悪いんだけど、一応聞かせてくれ」 たしかまず、ハルキの手際の悪さについてしゃべって。 「夕映が言ったことは全部夕映の言うとおりだし俺が悪い、ごめん」 まったくその通りです。 ええと、その次が確か目の前のことしか見てないとこき下ろして。 「でも、でもだ。 なんつーか、その・・・最後にお前――――」 最後? 最後って、何でもかんでもわかったようなことを言うな、ということでしょうか。 いえ違います、確か私は、最後にもうひとつ・・・・・・ 「――――お、俺のことが、好き、って・・・・・・」 ああそうそう、なぜハルキを好きになったりしたのかわからないと・・・・・・あああああああああ?!?!?! 「あ、あれは、ち、違っ! わ、私は、別にハルキが好きなんか、じゃ・・・・・・」 違わない、好きなのに。 なのに、やっぱり素直に言葉にできない。 自分の馬鹿さ加減が恥ずかしくて、顔が真っ赤なのが自分でもわかるほど熱くて。 この期に及んで素直になれない自分が嫌いで、ぼろぼろ涙が出てくるくらい悲しくて。 もう、あとは泣くだけ。 ハルキが途方にくれているのも構わずに、ひたすら泣いた。 もっと、ちゃんと『好き』って言いたかったのに。 もっと、素直になりたかったのに。 もっと――――そばにいられるようになりたかったのに。 自分がすごく、すごくみすぼらしく感じられて、泣くことしかできなかった。 どれくらい泣いたのだろう、泣きすぎて涙が出なくなり始めた頃。 「――――きゃあっ!?」 いきなり後ろから、ハルキに抱き上げられた。 抗議する間もなく、あぐらをかいたハルキの膝に座らされる。 そのままぎゅっ、と抱きしめられて、一瞬ぼーっとしてしまう。 ・・・一瞬です、本当に一瞬。 すぐに我に返って首を捻じ曲げ――――きつく抱きしめられているので体が動かせない――――キッとハルキを睨みつける。 「い、いきなり何するですかハルキ! 早く離すです!」 「んなこと言うなって・・・これでも精一杯の愛情表現なんだからさぁ」 「んなっ・・・・・・・?!」 あ、あああ愛情表現!? いきなり何を言い出すですかこのバカハルキ! 「いやだってさ、目の前であんなふうに泣かれたら何か気の利いたこと言わなきゃとか思ったんだけど・・・何も出てこなくてさぁ。 口で言えないなら態度で示すのが一番早いかなーと思って、こうしてるわけ」 そ・・・そんな同情なんて、いらないです。 同情なんかで慰められるくらいなら、いっそ『なんとも思ってない』ってはっきり言ってくれたほうが・・・ 口ごもりながら、ついそんな憎まれ口を叩いてしまった。 そうしたら。 ごつっ 「――――あうっ」 いきなり後頭部をぶたれた。 多分手加減はしたのだと思うが、それでも大分痛い。 不意の一撃に私がひるむのを見計らって、ハルキが答える。 「・・・馬鹿、そんなんじゃないって。 夕映が強情なのはとっくの昔っから知ってんだから、同情なんて意味ないのもわかってる。 だから、これは、そんなんじゃなくて、本当の俺の気持ち。 どぅーゆーあんだすたん?」 「いぇすあいどぅー・・・なんていうとでも思ったですか?」 「いや全然」 …コイツは。 「でもな夕映、俺はお前が俺のこと好きだって言ってくれて、ホント嬉しいんだぜ?」 むすっとうつむいた私の頭を軽く撫でながら、ハルキが言う。 その声のお気楽さが癪に障って、また、気持ちとは反対なことを言ってしまう。 「嘘つくなです。 そもそもハルキが私に好かれて嬉しい理由がありません。 私は、発育が極端に悪いですし、皮肉ばかりでちっとも可愛くなんてありませんし、それに・・・・・・」 「あーはいはい、ストップストップ。 ネガティブなのもほどほどにしようぜー、夕映」 「・・・・・・うるさいですね、ほっといてください。 全部事実なんですから」 どうしてこんな言い方しかできないのだろう、本当に。 素直に嬉しいといえばいいのに。 我ながら不思議で、馬鹿らしくて仕方がない。 そんな私にあきれたのか、ハルキは「やれやれ」と溜息をついている。 そう思った、瞬間。 「――――じゃあ、証拠見せれば信じてもらえるかな」 「――――は? ・・・んぐっ!? むぅ、うんっ・・・・・・・!」 いきなり顔をハルキのほうに向けられ、口をふさがれる。 突然のことに頭がぼーっとして、ハルキのなすがままになる。 真っ白だった頭が段々もやがかかったような感じになって、何も考えられなくなる。 「・・・ぷは。 やわらかいな、夕映」 「う、あうう・・・・・・」 何もいえない。 いきなり何をするんだこのスケベ、みたいな憎まれ口も、キスしてくれて嬉しい、みたいな素直な気持ちも。 ただ、目の前で優しく笑うハルキが愛おしくて、それしか考えられなかった。 自分でもどれくらいハルキの顔を見つめ続けていたかわからない。 その眺めていた笑顔が、ふといたずらっぽく崩された瞬間。 私は――――床に押し倒されていた。 「・・・・・・は、ハルキ? い、一体何を・・・・・・」 「何って、ナニを」 ――――――――ハイィィィィィ?! な、ナニってまさかもしかして、ほ、ほほほ本番!? む、むむむ無理、絶対無理! 「ちょっ、ちょちょちょっと待ってください! ま、まだ心の準備が・・・・・・っ」 「大丈夫、優しくするからさ」 「そういう問題じゃな・・・・んむぅぅぅ」 また口をふさがれた私は、何も抵抗できなくなる。 その間にハルキは私の服に手を伸ばし、着々と準備を進めている。 最初こそ、やめて、恥ずかしい、嫌、なんて言葉が切れ切れに浮かんでいた。 けれど、そんな拒絶の言葉も浮かばないくらいふわふわした気持ちになっていって、頭の中に浮かんだ考えはたったひとつだけ。 ――――――――大好き、ハルキ、と。 ただ、それだけしか考えられないまま、私はゆっくりと眼を閉じた。 ・・・え? その後どうなったのか話せ? 何馬鹿なこと言ってるですか、話せる訳ないでしょう。 ――――ただ、ひとつだけ言うならば。 ハルキが私を本当に好きでいてくれているのが、よくわかったと、それだけは、言っておきましょう。 あとでハルキに機嫌を損ねられても厄介ですから。 ・・・まぁ、それはそれで、幸せですが。
https://w.atwiki.jp/negiko/pages/115.html
さて、人の心とはそも誰にも計り知れぬもの。 特に色恋に関しては何をかいわんや。 たとえ自分に振り向いてくれないことがわかりきった相手でも、好きになってしまったものは仕方ない。 とはいえ、自分に振り向いてくれない相手を想い続けるというのは、辛いものだが。 「おーい刹那さん、ちょっと今日剣術の修行付き合ってくれねーかな?」 そう言いながら、刹那の席に近寄っていったのは神楽坂明日太。 剣術の稽古を口実に、少しでも刹那と一緒にいたいという魂胆である。 だがもちろん、色恋に疎い刹那がそんな明日太の企みに気付くこともなく。 「あ、かまいませんよ。 ちょっと待ってていただけますか?」 即座に了承。 明日太は心の中でしっかりとガッツポーズを取りつつ、何気ない様子を装って礼を言う。 「マジで? ありがとうな刹那さん!」 「いえ、明日太さんがこんなに熱心に剣術に取り組んでくださるのは、私も嬉しいですから」 そういってにっこりと微笑む。 その無邪気な愛くるしい笑顔に心の中で悶絶しつつ(実際に悶絶したら当然マズイので)、刹那の帰り支度が整うのを待つ。 刹那が教科書をすべてカバンにしまい、行きましょうか、と言った、そのとき。 「せっちゃ~~~ん! 一緒に帰ろ~?」 ――――なんでだよ、と、明日太は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。 声の主は、明日太の親友にしてルームメイトの、近衛木乃雄。 刹那と幼馴染であり、刹那が――――多分自覚はないだろうが――――好きな相手。 なぜ他人の明日太がそんなことがわかるのか。 それは簡単なことだ。 「わ、若様っ?! は、はい今す・・・・・・あ・・・・・・」 やっぱりだ。 多分、「今すぐ行きます」と続くはずだった言葉を飲み込んで、申し訳なさそうに明日太を振り返る刹那。 こういう顔をされたときが明日太は何より辛い。 一つ目の理由は、やっぱり自分よりも木乃雄が大切なのか、という嫉妬。 二つ目は、たとえそれが刹那の責任感の強さからとはいえ、後ろめたそうな表情を自分に向けられることへの悲しさ。 そして三つ目は、刹那さんを悩ませることがわかっているのに、自分は刹那さんを好きになったのか、という自己嫌悪。 だが、それらを悟られないように押し隠しながら、無理に残念そうな笑顔を作り、 「あー、気にしないでいいって刹那さん。 俺のはまた今度でいいからさ、木乃雄と一緒に帰ってやってくれよ――――アイツ、刹那さんと帰れないとすぐしょげちまってさ、大変なんだわ」 嘘をついた。 それも二つ。 一つ目の嘘は、『また今度でいい』という自分の気持ちへの嘘。 二つ目は、刹那と帰れずに寂しい思いを噛み締めることになるのは、木乃雄ではなく、自分であるという嘘。 もう、つきなれてしまった嘘。 でも、つくたびに胸が痛む嘘。 その嘘を感づかれないうちに、刹那の背中を押して、誰よりも一緒にいて、誰よりも信頼して、誰よりも大切な恋敵のもとへ送り出す。 幸い、刹那は明日太の胸のうちに気付くことなく、すみません、と一礼して木乃雄のところに行った。 その背中を見送って、しばらく立ち尽くした後、帰るか、と刹那の机に立てかけていた自分のカバンを拾い上げ、教室を出た。 階段を降り、下駄箱から靴を出し、玄関を出、校門をくぐる。 急に吹いた強い風にあおられ立ち止まり、ふと空を見上げる。 「・・・何やってんだろうな、俺」 自嘲気味につぶやくと、見上げた青空がわずかににじんだ。
https://w.atwiki.jp/negiko/pages/111.html
さて夏も終わって大分経ち、随分涼しくなってまいりました。 さんぽ部に所属する鳴滝姉弟にとって、絶好のさんぽ日和な日々が続いておりましたとも。 だからこそ、風香も自然に『今度の日曜日、一緒に出かけよう?』てなことをいつもの部活の延長みたいな言い訳をつけて約束させることができたわけです。 がっ。 「・・・なんで、なーんーでっ! こういう日に限って思いっきり天気予報って外れるかなぁ!?」 むきーっ!という効果音がぴったりな形相で机に張り付き、剣呑な雰囲気を振りまいている風香。 そりゃそうだろう、ここ何日かすっきりした秋晴れが続いて、天気予報でも「週末はすっきりした晴れ模様となるでしょ~」なんていわれてたのに思いっきり大雨に降られちゃあ。 しかもそれが、せっかく、せーっかく勇気を出して誘ったデートの日(たとえ史也が自覚してなくても)だったりしたらもうご機嫌メルトダウンも致し方ない。 だがしかし、誘われた側の史也はそんな風香の気持ちなんて知る由もなく。 「まぁまぁお姉ちゃん・・・そんな怒らなくたっていいじゃない。 きっと来週はまた晴れるよ」 少々呆れ気味に、机にへばりついて陰々滅々うじうじうじうじ(そこまでじゃないやい! by風香)している姉をたしなめる。 しかし、風香にしてみれば史也の態度そのものが気に食わない。 何さ人がせっかくデートに誘ってあげたのにそれに気付かないなんてっていうか弟なのになんでそんな偉そうなの私がお姉ちゃんなんだぞ。 そんな気持ちを籠めに籠めた眼で史也をきっと睨みつけ、また机にへばりつく風香。 風香としては、そんな安っぽい慰めよりも、『お姉ちゃんと出かけられなくて残念だなぁ』くらいのことを言ってくれたほうがよっぽど嬉しいのだ。 だがこの鈍い鈍い弟はそんなことにも気付かない、あああもうバカバカバカ! うがーっと手足を振り回し、全身で機嫌の悪さを表現。 イライラのぶつけ先がないだけに余計にストレスがたまる。 その溜まったストレスを発散しようにもどうしようもないからまた溜まる。 最悪のストレススパイラルモードに突入した姉を目の前に、史也はこっそりと溜息をつく。 そもそもなんで出かけられないくらいで(史也が風香の気苦労に気付くはずがない)こんなに怒るのかなぁ、などとのんきなことを考えている。 とはいえこのまま放置して八つ当たりされるのは勘弁だ。 この状況でなんとか風香の機嫌を上向きにするにはどうすべきか。 史也の頭で考えうる限り考えた結果出た結論、それは。 なでなで。 コラそこ安易とか言わない。 これは文也の経験からはじき出されたもっとも友好と思われる対風香ご機嫌メーター上昇ウェポンなのだ。 いやまぁ早い話が『お姉ちゃんが不機嫌なときはなでてあげれば大体なんとかなる』という経験則からの行動というだけなのだが。 ちなみに『なでればなんとかなる』というのはただ風香が単純だというわけではない、断じてない。 風香にとって史也は誰よりも大好きで、愛しくて愛しくてしょうがない相手だ。 そんな相手に頭を撫でられたりすれば、どんなに不機嫌であっても『史也が撫でてくれてる』という理由だけで嬉しくてしょうがない、という可愛らしい乙女心の表れなのだ。 まぁ風香のそんな想いに気付けていない史也が知るはずもないことだが。 「・・・・・・何、史也」 とりあえず頭を撫で続けていた史也を上目遣いの涙目で睨みつつ、不機嫌な声で風香が問う。 あ、コレはまずいかも。 史也は自分の読みが外れたらしい状況に冷や汗を流しながらも、平静を装って答える。 「え、えっと・・・なんかお姉ちゃんが随分イライラしてるみたいだから、ちょっとでも落ち着いてくれればな~、って・・・あぶぅっ?!」 冷や汗を流しながら空笑いする史也の頭を、風香のゲンコツが直撃。 史也は思わず、風香の頭に載せていた手をそのまま自分の頭の上に持っていき、風香にぶん殴られたところを抑えて身悶える。 風香はふん、とそっぽを向いてまたふてくされている。 よかれと思ってやったのにこれはないんじゃないか。 ちょっとそんな腹立たしさを感じた史也が風香に抗議する。 「・・・・ったぁ・・・何するんだよぉ、お姉ちゃん」 「うるさい、馬鹿史也」 何それ。 いくら温厚な史也でもさすがにむっと来た。 なので、史也もそっぽを向いてそっけなく言い返す。 「・・・何だよ、もう。 大体、なんでそんなに怒ってるのさ? 何かしたいことでもあったの? ていうか・・・」 その続きをいおうとして風香のほうに向き直った史也は、思わず息を呑んだ。 何で僕を誘ったの、とはいえなかった。 風香が涙を一杯にためた眼で、きっと史也を睨んでいたから。 きっと言い過ぎたんだ、ごめん――――史也が慌ててそう謝ろうとした、そのとき。 「――――むぐぅっ!?」 風香のくちびるで、思いっきり口をふさがれた。 もっと簡単に言えば、キスをされた。 突然のことに史也の頭は大パニック、何で、とか柔らか、とか意味を成さない単語が頭の中を飛び回っている。 それに対して、史也の口から自分のくちびるを離した風香は、相変わらず泣きそうな顔を不機嫌にゆがめたままそっぽを向いている。 そして、風香の口がゆっくりと開き、 「――――こんなことを、もっとロマンチックにしたかったんだよ・・・馬鹿史也」 そういい残して、さっさと自分の部屋に戻ってしまった。 取り残された史也は、ただただぽかんとしているだけ。 窓の外では、激しい雨がまだ降り続けていた。 今の風香と史也の仲は、窓の外の景色と同じ土砂降り。 この先、雨が止んで、雲の切れ目からまぶしい太陽が顔を出すのか、それともさらに酷い嵐になるのか。 天気ひとつ読み当てられない人間には、二人の心の行く末など読み当てられるはずもない。 さてさて、いったいどうなることなのやら。 それは誰にもわからない。
https://w.atwiki.jp/negiko/pages/147.html
「いよいよ、か――――」 ある小さな教会の一室。 白いタキシードを着込んだ刹那は、天井を仰ぎながら小さくつぶやいた。 その顔のあちこちに傷跡が薄く残っているのは、先日の戦いで受けた傷の深さをありありと物語っている。 実際、刹那はほぼ“死んでいた”。 全身に刻まれた傷、とめどなく溢れ出る鮮血。 それらをものともせず敵を斬り、裂き、突き、抉る刹那。 彼には、絶対に失えない恋人(ひと)がいた。 全てを捨ててでも護りたい、大切な婚約者(ひと)がいた。 愛する者を背負った彼は、気高い武神のごとき闘気を纏い闘った。 その刹那に、一片の憐憫すら与えずになお傷を刻み命をそぎ落とす敵。 刹那の剣を掻い潜り、その体に“死”を刻み込む悪意を全て倒したとき、刹那の体もまた、力の全てを失って崩れ落ちた。 彼が死の淵に落ちようとした、まさにそのとき。 彼の眼に浮かんだのは、愛しい、愛しい少女の姿。 『アホ・・・・・・こんなに傷作って帰ってきて・・・・・・』 ――――ああ、やっと・・・一緒になれるんやなぁ・・・・・・ 震える体、こぼれ出る涙。 ――――もう、何も・・・辛くない・・・幸せに、してやれる・・・・・・ その言葉が彼の意識から消えると同時に、彼の愛刀は、力を失った彼の手から滑り落ちた。 本来なら、刹那はそこで死に、永久に目覚めることはなかっただろう。 だが、天は愛する者のために刃を振るう彼の気高さに心打たれたか、それともいわれなき迫害を耐え生きてきた彼と、彼の愛した少女へのせめてもの償いか。 駆けつけたネギ子達、その中にいた木乃香と木乃雄の治癒魔法の力によって、刹那は死の暗闇から抜け出した。 ただ傷を癒されただけなら、身体を離れかけた彼の魂は戻らなかったかもしれない。 しかし―――――――― 「一緒に、暮らそうって・・・結婚しようって、言うたのに・・・・・・っ! 嘘、付きっ、嘘付きぃっ! 眼ぇ、開けてよぉっ!」 愛する少女の、悲しみと絶望がないまぜになった叫び。 ――――もう二度と、辛い思いはさせたくない。 ――――幸せに、してみせる。 その強い想いが、刹那の魂を呼び戻した。 刹那が眼を開けたとき、彼が愛した少女はもちろん、周りにいた仲間達も、天地を揺るがすほどの歓声をあげた。 大粒の涙を流しながら、「よかった、よかった・・・」とつぶやく者。 お互いに抱き合って喜びを噛み締める者。 言葉を発することなく、ただただ涙を流している者。 自分が“生きている”ことを歓喜する声に包まれながら、刹那は思った。 ――――ああ、俺は・・・・・・なんて、“幸せ”なんだろう。 死から逃れたから安堵からではない、再び命を手にした喜びでもない。 ――――自分の“生”を心から望んでくれる人がいる。 数多の迫害に晒され続けた彼は、ただ、それだけで十分だった。 「どないしたん? ぼーっとして」 「あ・・・ちょっと、考え事です」 眼をそっと閉じたまま、思いにふけっていた刹那を呼ぶ澄んだ声。 そこには、彼と同じ名と純白の翼を持つ少女――――彼と苗字まで同じ、桜咲刹那が立っていた。 (わかりやすくするため、それぞれを「刹那♂」「刹那♀」と表記させていただく。 最後の性別記号は無視していただいてかまわない) 刹那♀が身にまとっているのは、彼女の翼と同じ、どこまでも汚れのない白いウェディングドレス。 これで刹那♂の着ている白いタキシードにも合点がいくであろう。 そう――――二人は、今日この教会で結婚するのである。 しばらく無言で見つめあう二人――――ふと、刹那♀が静かに微笑んだ。 「えっ・・・ど、どこか変ですか?」 慌てて自分の格好を確認する刹那♂、しかし刹那♀は微笑みを絶やさないままゆっくりと彼に近づいて、そっと、しかし力強く抱きしめる。 「――――ありがとう、帰ってきてくれて」 かすかに震える声で、愛する人の胸に顔をうずめたまま、言葉を紡ぐ。 「もし、貴方が死んでたら、うち、おかしくなってもうたかもしれへん」 初めて出会った、自分と同じ悲しみを知る人。 悲しみに囚われ続けていた自分を、優しく諭してくれた人。 『一緒に暮らしましょう』と言ってくれた人。 「後でもう一回言うことやけど、今、言わせて」 周囲から、ずっと「化け物」と呼ばれてきた。 大好きな親友といても、その記憶が消えてくれなかった。 怖くて、さびしくて、壊れてしまいそうだった自分。 そんな自分を助けてくれた、彼。 私は、私は―――――――― 「――――私は、貴方を、愛してます。 ずっと、ずっと、一緒にいてください」 自分の胸で、小さく震えながら、想いを紡ぐ愛しい少女。 自分と同じ迫害に晒され、じっとそれに耐え続けていた少女。 自分の命を投げ捨ててでも、護ろうとした少女。 ――――『幸せにする』と誓った少女。 愛する花嫁を抱き返し、刹那♂は答える。 「はい――――僕は、絶対に貴方のそばで、貴方を護ります。 何があろうと、絶対に」 その言葉に、ゆっくりと顔をあげる刹那♀。 眼に涙をためながらも、彼女は心の底から幸せそうに微笑んだ。 そのとき。 こんこん。 「二人ともー、準備でけた?」 「そろそろ始まってまうで、急いでや~」 「「は、はいっ!」」 静寂が包んでいた部屋に響くノックの音と、その後に続く少年と少女の声に二人そろって素っ頓狂な声をあげ、顔を見合わせて苦笑する二人。 二人を呼びにきたのは、二人の幼馴染である近衛木乃香と近衛木乃雄だ。 この結婚式で進行役を務めることを買って出たのは、幼馴染の幸せを心から願う純粋な気持ちからだろう。 そして、花婿と花嫁の二人は、祝福してくれる人たちの待つ、ドアの外へと歩き出した。 「――――貴方達は、いついかなるときも、互いに助け合い、愛し合うことを誓いますか?」 「誓います」 「――――誓います」 穏やかな光が、ステンドグラスを通して教会の中を照らしている。 神父の役目を務めているのは春日空、その横にシスターの姿で小箱を持って控えているのは春日美空だ。 本来ならば二人がこんな役回りをしていいはずはないのだが、「お世話になった人たちだけで式を挙げたい」という新郎新婦の願いにより、二人がこの役を負うことになったのだ。 そして、神父空の問いに二人が答えたあと、美空がゆっくりと二人の前に移動し、小箱をゆっくりと開ける。 その中にあったのは、いたずら好きな二人が仕込んだ蛙などではなく、銀色に輝く、二つの指輪だった。 やや小さいほうを新郎が、大きいほうを新婦が取り、互いに向き合う。 一瞬、しかし二人にとっては十分な時間見つめあい、互いの指に指輪をはめる。 「――――いよっしゃ! これでお二人は夫婦だかんねー、いいなぁーラブラブ新婚生活!」 「あーあ、桜咲がうらやましいぜ、こんな可愛い花嫁さんなんてさぁ。 神様ー、俺にも出会いをぷりーず!」 二人が指輪をはめ終えた瞬間、それまでの空気を吹き飛ばすかのように美空と空が騒ぎ出す。 これまでおとなしくしていた分を取り替えそうかとするようなハイテンションぶりに苦笑いする刹那♂と、それすらも嬉しそうに微笑んでいる刹那♀。 すると出口のほうから、二人を呼ぶ声が飛んできた。 「せっちゃーん! そろそろみんなのとこ行ったってー!」 嬉しそうに叫ぶ木乃香の声に答えつつ、二人は教会の出口へと向かう。 扉のところで立ち止まると、木乃香と木乃雄がゆっくりと扉を押し開ける。 そこには―――― 「刹那さん、おめでとうございます!」 「桜咲さん、今までみたいに私にからかわれて慌てたりして花嫁さんに愛想尽かされたりしないでくださいよ?」 素直に祝福の言葉を捧げるネギと、ひねくれた言い回しをするネギ子。 正反対な二人だが、心からの祝福が顔に表れているのは同じだった。 「刹那さん泣かすんじゃねえぜ、桜咲!」 「よかったでござるな、刹那殿。 お幸せにでござる・・・ニンニン♪」 「あの時はひやひやさせられたが・・・これで一安心だな」 「ううう、よかったよぉ~」 「ええ、まったくです」 色取りどりの紙ふぶきの中で飛び交う、クラスメイトたちからの祝福の言葉。 刹那♂の世界のクラスメイトも、刹那♀の世界のクラスメイトも一同に会し、幸せな二人を祝っている。 刹那♀は涙を浮かべながらも微笑んで愛する人を見上げ、刹那♂は愛する人に微笑み返しながらそっとその背中を押す。 そして、刹那♀は手にしたブーケを思い切り高く投げ上げた。 ブーケが飛んだ空は、雲ひとつない、美しい青空だった―――――――― 蒼穹を駆ける純白の翼。 少女の翼を縛る悲しみの鎖は、少年の想いによって断ち切られた。 自由となった少女は、愛する少年と共に大空に飛び立つ。 ――――“自由”という名の青空へと。
https://w.atwiki.jp/negiko/pages/93.html
釘男(円♂)×美砂 「ヘイ円! これなんてどーよ!」 画面を高速で動き回る敵に意識を集中していた俺の後ろからけたたましい声が響く。 すぐに反応しないとゴネてうっとうしいんだがとりあえず今はパルヴァライザーのブレードを避けて一撃叩き込 まないと終わらないのでそっち優先。 「・・・ねぇ円ぁ~、こっち見てよ~ねぇ~、ほらほら~」 「あー待て待てあと一撃・・・っしゃ!」 俺の機体の射突型ブレードがパルヴァライザーをぶち抜きようやく撃破。 ふぅ、なかなかの手強さだったぜ。 「むぅ~私の艶姿よりゲームのほうが大事だっての? つーか何でいまさらラストレイヴンなのよ・・・・・・」 「いいだろ別に、PS3で4が出るっつったって買えねぇし・・・・・・どわっ?!」 画面から目を離して振り返った途端、思わず叫んで座ったまま飛びずさる。 いきなりそれは失礼だろ円さんよぉとか言う前に美砂の格好を見てくれ、誰だって俺と同じ反応をするはずだ。 「どう? 似合うっしょ!」 いぇーい、とポーズを決める美砂が着ているのは、いわゆるナース服。 お前どっからそんなマニアックなもん手に入れたんだ。 「ふふふ、女子には男子には永久にわからない特別のつながりがあるのよ円クン」 ぬふふー、と意味ありげに笑う美砂。 まぁコイツはなんでもないときでもなんでもあるみたいにいうから別に気にしなくてもいいだろう。 それよりも。 「あーはいはいそうですか。 で、なんでまたそんな奇っ怪なカッコしてんだよ」 大事なのはコレだ。 相部屋になってから大抵の馬鹿な真似はしてきたコイツだが――――いいたかないが女装もさせられた―――― 、まさかコスプレまで趣味に増えたとは聞いてねぇぞ。 させるのが趣味なのは前からだけどな。 「奇っ怪って何よ、失礼ねぇ・・・・・・なんでもいいじゃない、それよりどう? 色っぽい?」 いやなんでもよくねぇから聞いてるんだよ美砂さんよぉ、と言ってもスルーだろうこいつは。 てゆーかいちいちしなを作ってポーズを取るな。 「色っぽいも何もあるかバカ。 いーからさっさと着替えて来いって」 「えー、なんでよー」 「いいから黙っていけ!」 そばにあったクッションを投げたのをひょいっと避けて舌を出し、風呂場に直行する美砂。 そうそうそれでいいんだよバーロ、と思いつつコントローラーを手に取った瞬間、 「・・・美砂美砂ナース、美砂美砂ナース、生麦生米」 「黙れ腐女子!」 いい加減にして欲しいぜ、まったく。 その後、美砂がシャワーを浴びる音を遠くで聞きつつ、俺は最終ミッションをクリア。 コレでようやく全ルート制覇だ。 で、その後隠しミッションに挑んで散々にボコられてふてくされて終了。 そういや腹減ったなぁ、と思ったあたりでふと気づいた。 「・・・・・・・あれ? 桜子は?」 確か俺がゲームを始めるまではいたはずなんだが。 さていつの間に消えたのやら。 「桜子なら『今日はちょっちハルナんとこではっちゃけてくるよーっ!』とか行って出かけたわよ」 「あっそ、ならいいか・・・・・・・ってよくねぇよ何だそのカッコ!」 思わず吼える。 あ、一応言っとくけど桜子がはっちゃけるのがよくないわけじゃない。 よくないのは風呂上りに体もちゃんと拭かずに出てきた美砂のカッコだ。 どんなかというとただ単にYシャツ着てるだけなんだが・・・それだけなんだ。 あーいや悪かった今の言い方だとわかりにくいなスイマセン。 何をとち狂ったのか美砂のヤロウ俺のYシャツ(もちろんブカブカ)着ただけであとは素っ裸で出てきやがった。 下着?そんなもん確認できるか! つーかなんで今日に限ってこいつはこうもわけのわからん格好をする!? 「ふふふ、どうよ円・・・これぞ男の夢、裸Yシャツって奴よ!」 「勝手に間違った思い込みで行動してんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!」 いや確かにその意見には同意だけどな! でもいきなり実行されても反応に困るんだよ! 「えーノリ悪いなぁもー円クンはぁ。 グッと来ない? 湯上り美人の裸Yシャツなんてそう拝めないよ?」 そう言いつつ体をかがめる美砂。 ヤバイ第2ボタンまで開けてるから胸が、胸がッ! 必死で意識をよそに向けつつ無関心を装ったことを言ってごまかそう。 気取られたら調子に乗られること間違いなしだからな。 「よく自分で美人とか言えるなオイ」 「さぁ何のことかな? ていうかホントなんとも思わないの? もしかしてホ」 「その先言ったらぶちのめすぞ」 「やぁ~ん円クンこわぁ~い」 「気色悪い声出すな! いいからさっさとまともな服着て来い風邪ひくぞ!」 「ふぁ~い」 つまらなそうな生返事をしつつ風呂場へ戻る美砂。 その背中に『次妙なカッコしてきたらそのまま窓から投げ捨てるからな』といおうとして即やめる。 いやなぜかって後ろを向いた美砂のYシャツのすそからまぁ・・・・・・・アレだ悟れ。 まずとりあえず俺がしなきゃいけないことは・・・・・・ ・・・血の気治めようか、うん。 しばらくうずくまって安静にして普通の状態にしてから(何をとか聞いちゃいけないんだぜ子供達)、とりあえず 台所へ。 腹減ったので手っ取り早く食えるもんないかな。 ・・・ねぇんだよないつもこういうときに限って! カップ麺も切らしてるし冷凍食品も壊滅状態とかどうなってんだ。 まぁ愚痴ってても仕方ないので適当に冷蔵庫の中に転がってる野菜とウィンナーあたりを引っ張り出して適当に 刻み、冷凍してあった飯を解凍してフライパンに叩き込んだところにまとめて放り込んで一気に炒める。 味付けは適当に塩コショウとあとソースあたり突っ込んで微調整。 ハイコレで円特製焼き飯の出来上がりー。 生活感に欠けるバカ女二人と同居してる俺にとって今日みたいな状況はよくあるので結構コレには世話になって たりする。 残ってる具材によって味はあんま保証されないのが難点だがな。 まぁ今日は結構まともな食材だったから大丈夫だろう・・・多分。 「ん・・・・・・ふぁ~いい匂い、ねね、私の分は~?」 俺が焼き飯を皿に盛ってさぁ食おうというナイスタイミングで風呂場から顔を出したのは美砂だ。 つうか他に誰もいないんで他の誰かが顔を出しても困るんだが。 「ったく、こういうときだけは行動早ぇよな・・・フライパンに残してあるから適当に食え」 「はいはい、さんきゅ~♪」 てててーっと台所まで足早に移動する美砂。 着ているのは上下おそろいのチェックのパジャマ。 ようやくまともなカッコで出てきたので軽く安堵。 つってもそれも俺のなんだけどな、中1のときの奴。 まぁ美砂にはちょっとでかいくらいでちょうどいいらしいからいいんだが。 俺としては目の前の焼き飯に手をつけるのを待つ義理はないし冷めたらせっかくの飯がまずくなるので早く食い たいがそうすると美砂がほぼ100%拗ねだすので待機。 「うっひゃ~いい匂い・・・こりゃおいしそうだわ」 TVのスイッチを入れて今日のニュースの二つ目に差し掛かったあたりで美砂が席に着く。 皿が熱いのか袖口を手のひらのところまで引っ張って皿を持っている。 ・・・自分でも不思議なんだが、いつも妙に大人ぶったような雰囲気の美砂がこのパジャマを着てるときだけなぜ か子供っぽく見える。 皿置いてスプーンですくって食えばいいのに皿持ったままふーふー息を吹きかけて冷ましてる顔といい、ぺたん と座った格好といい。 着てる服が俺がもうちょいガキ――――まぁまだガキだけどさ――――のころ着てた奴だからそんときの自分が 重なって見えるのか? 「・・・・・・ん? どしたの円、私のほうばっか見て」 「え・・・あ、いやなんでもねぇ」 ちょっとボーっとしすぎてたらしい。 知らない間にじっと美砂の顔を見つめてて、それに気づいた美砂がきょとんとしている。 なんでかは知らんが顔が妙に熱くなってるのをごまかすために目の前の飯をかっこむことに集中する。 美砂のほうはしばらくポカーンとしていたが、俺がガツガツ食ってるのに触発されてこちらもすごい勢いで飯を 口に運んでいる。 俺と美砂が皿を空にするまで、その場に流れていたのは誰も聞いていないニュースの音だけだった。 「ぷはぁ~、ごちそうさまぁ」 「ごちそうさま・・・ってお前皿自分で持っていけよな」 飯を食い終わったのはほぼ同時、しかし皿を持って立ち上がったのは俺だけで、美砂はそのまま腹をさすって満 腹休憩モード。 まぁいいか、後で自分で持っていくだろ、と思った俺が台所へ行こうとした、その一瞬。 かちゃん、という音を立てて美砂の皿が俺の皿に重ねられた。 「・・・・・・・・」 「んじゃ、お願いね円っ(はぁと)」 (はぁと)じゃねえ、自分で持っていけコノヤロウ。 「いーじゃん別に円も自分のお皿持っていくんだしさぁ。 男の見せ所じゃない」 「どこがだよ・・・ったく」 文句を言いながらもそれ以上の無理強いはせずに台所に持っていく。 ここで何を言っても聞かないのは経験上よーくわかってるからな。 ・・・アレ、もしかして今までここで粘らなかったから聞かなくなってるのか? まぁいいか、どうせ手遅れだ。 皿とスプーンを適当に流しに放り込み(特に他に洗い物もないので明日の朝まとめてやる)、なんとなくTVの前 へ。 意味もなく流れていくニュースに突っ込んだり美砂の天然というか非常識な反応を訂正したりするうちに夜が更 けていく。 ふと時計を見るともう大分遅い、そろそろ寝なければ明日悲惨な朝を迎えることになる。 「おい美砂、俺そろそろ寝るわ」 そういって先に自分の部屋に行こうとした――――のだが。 「・・・・・・・」 「・・・なんだよ」 なぜか、俺の服のすそを美砂が引っ張って離さない。 俺がジト目で見下ろすと、美砂は上目遣いで俺を見上げてくる。 こうなるとどっちが勝つかは忍耐力次第――――とはならないんだよなコレが。 とりあえずパジャマでクッション抱いてうるうる上目遣いされて平然と対応できる人間がいたら俺に教えてくれ 、コツが聞きたい。 「・・・あーもー、用があんならさっさと言え。 あんま夜更かしすっと寝坊すんぞ」 たはぁー、とでかいため息をついて頭をかきながら、敗北宣言。 いつもならココでにまーっと憎たらしい笑顔になる美砂が、どうしたことか今日はなにやらそわそわと。 俺としてはさっさと済ませて寝たいんだが。 「んーっと・・・あの、さ・・・・・・」 「何」 早く言ってください、眠いんです。 「・・・一緒に、寝よ?」 「――――――――ハイ?」 思わず聞き返す。 だってどう考えても今聞こえちゃいけない単語が聞こえた気がしなかったか? しかし美砂は相変わらず目を背けたままで、 「ほ、ほら今日桜子いないじゃん? さっきメールで今日は帰れないって言ってきてさ、いつも私と桜子おしゃ べりしながら横になってるんだけどひとりだと落ち着かないし、なんか寂しいから今日だけちょっとわがまま聞 いてくんないかな?」 わがままなら毎日聞いてますが・・・ってそんな問題じゃねえわな。 つうか寂しいって・・・中3にもなってそれはどーよ。 けれどそんな文句は、あのなぁ・・・と頭をかきながら美砂のほうを見たときにはいえなくなっていた。 「・・・・・・・・・・・」 美砂は今まで見たことないぐらい真剣で切実な眼差しでこっちを見つめている。 もうなんていうか待てコラそれ反則じゃねーのかよっていうくらい破壊力が。 こうなると後の展開はさっきの皿運びと同じ展開になるわけですよ旦那。誰に言ってる。 「だぁぁぁぁもうわかったわかった! 一緒に寝りゃいいんだろ寝りゃ! ただし絶対妙な真似すんなよ?!」 まくし立てるようにそういって、足音高く風呂へ向かう。 いやだってまだ入ってないし。 まぁちょっと頭冷やせばアイツもきっとけろっとした顔してるだろうさ。 そう願ってたんだが。 「・・・・・・・」 「あ、円。 ちょっと長風呂すぎない? 大分待ちくたびれちゃったんだけど」 残念ながら、風呂から上がって部屋に入った俺の目に飛び込んできたのは、俺のベッドの上にぺたっと座って枕 を抱いている美砂の姿。 あー考え直してくれなかったんだ・・・と軽く落ち込む。 「どしたの円、そんなとこで突っ立って」 「・・・とりあえず、俺はお前の思考回路を整備してくれる人間を探したい気分だよ」 「何よソレ」 わからなくていいよもう。 俺としては一緒のベッドで寝ることだけは断固避けたかったんだが二度あることは三度あるのおねだり眼力ビー ムに負けて仕方なく同じ布団に。 しかしさすがに向かい合って寝るような勇気はないので美砂に背中を向けて全力で意識を目の前の壁に集中する 。 そうでもしないと背中のほうから伝わってくる普段は有り得ないぬくもりがもうどうにもこうにも。 が、美砂はそんな俺の必死の努力もあっけなく無意味にしてくれた。 ぎゅうっ・・・・・・・! 「なっ、ななななな?!」 いきなり背中から抱きつかれた。 おま何をどう血迷えばこんなことができんだよあああヤバイなんかすげぇあったかいぎゃあああ背中にやわらか いものがあああああああああ。 一瞬で脳内が1000%スパーキングした俺の背中に、美砂が小さく呟く。 「ごめん・・・ちょっとこのままいさせて」 その声が、いつもの美砂とは全然違う――――暗い、沈んだ声だったことにぎょっとした。 振り返ろうとするが、きつく抱きつかれてるせいでそれもできない。 仕方がないから、壁を見つめたまま、美砂を問い詰める。 「・・・どうしたんだよ、らしくねぇな」 俺がそう言うと、美砂はびくっと一瞬震え、しばらく黙っていた後、その場にそぐわない明るい声で話し始めた 。 「あ、アハハ・・・いやー実はこないださぁ、彼氏に振られちゃって。 なんとなーくヤバイなーとは思ってたん だけど案の定、他に好きな人ができたから別れてー、だってさ。 いやー手もつなげなかったよ、私としたこと が。 しくじっちゃった、アハハ」 「・・・・・・・」 「や・・・やだなぁ円、そんな黙らないでよぅ。 別に全然気にしてないって、よくあることだよ」 何がよくあること、だ。 本当にそう思ってるんだったら――――なんで、俺の体に巻きついてる腕が、こんなに震えてるんだよ。 「・・・ったく、バカが・・・・・・」 腕の力が緩んだスキを見計らって、美砂のほうに向き直る。 驚いて俺の顔を見上げた美砂の顔は案の定、涙でぐしゃぐしゃだった。 その頭を少々乱暴に抱え込む。 「わっ・・・円?!」 思わず声を上げた美砂を無視して、その頭をきつく抱きしめる。 面と向かって言うには、これから言うことは照れくさすぎるから。 「――――あのなぁ、いっつもいっつも気ぃ使わずに好き勝手やってるくせに、変なときにだけ気ぃ使うんじゃ ねぇよ。 一体どんだけ一緒にいたと思ってんだ。 ムカついたら怒鳴れ、泣きたかったら泣け。 いくらでも 聞いてやるから」 「円・・・・・・・」 「今日変なカッコして色仕掛けみてぇなことしたのも無理してたんだろ。 ・・・んなことしなくたっていいんだ よ、どんだけ泣こうが喚こうが、俺は怒ったりしねぇから。 それよりも、お前がそんな風に無理して我慢して るほうが腹立つっつーんだ」 「・・・・・・・・」 美砂は何も言わずに、震えている。 別にコレで俺がどう思われようが構わない、俺の言いたいことはこれで全部だ。 でも、抱えた美砂の頭は離さないで、そっと撫でてやる。 なぜかって? 泣いてる奴の顔を無理に見るような真似はしたくねぇからだよ。 で、しばらくして。 「・・・美砂ー? おーい、美砂ー?」 「・・・すぅ、すぅ・・・・・・」 ・・・寝ちまってるし。 ずっと撫でてた手を止めて、ちょっと美砂の体を離す。 意外とすっきりしたって感じの寝顔には、泣いた後がばっちり残っていた。 「あーあー・・・ぼろぼろじゃねえか、ったく」 ため息をつきつつ、もう一度美砂の頭を抱きかかえる。 いやホラやっぱ雰囲気的にこのままぽーいと放り出すわけにもいかないしさ? 正直俺も大分疲れたので、そろそろマジで寝させてもらおう。 「・・・お休み、美砂」 眠っている美砂にだけ聞こえるくらいの小さな声で、そう呟いて、眼を閉じた。 で、翌朝。 「円~~~~っ! 急ぎなよ、遅刻するよーっ!」 「うるせぇ! だったらもっと早く起こせっての!」 だぁぁぁぁもうやっぱ昨日あんな真似するんじゃなかった! おかげで俺は思いっきり寝過ごして遅刻ギリギリ、しかも憎たらしいことに美砂はさっさと起きて自分の準備は 全部済ませている。 とりあえず顔に水ぶっ掛けて歯磨いて着替えながらトースト口に放り込んで・・・ってぎゃあああ間に合わねぇぇ ぇぇぇぇぇ! 「もー、何やってんのよ円! のんびりしなーいっ!」 「だぁぁぁやかましい! 誰のせいだ誰の!!!」 「えぇ~? 寝坊したのは円クンの責任でしょ~?」 こ、コノヤロウ・・・・・ッ! 「ま、昨日のことは感謝してるけどね・・・おかげでずっと片思いの相手にアタックする勇気出たし」 「はぁ? なんだそりゃ」 時間がないのも一瞬忘れて呆れる。 だってお前・・・なぁ? 振られたーッ!って泣いてた奴が実は他に片思いの相手がいましたとかそれなんてご都合主義。 「いやーずっと叶わないなーと思って諦めてたんだけど・・・昨日の円の話聞いたら頑張ればなんとかなりそうな 気がしてさ」 ああそうですかそりゃよかったですね。 とりあえず時間がないのでちょっと失礼しますよ。 「あーん、ちょっと待ってよ円ぁ。 誰が相手なのか気になんないのぉ?」 「気になんないしそんな余裕もない」 実際もうマジ時間ヤベェし。 「そう言わずに気にしてよ~ねぇねぇ~」 「あーハイハイわかりました誰なんだろうね気になるなー」 と、投げやりに返事をして、ふと美砂のほうに振り返る。 その瞬間。 ――――ちゅっ。 「・・・・・・・はっ?」 えーっと・・・今のってもしかして・・・・・・キスって奴ですか? でも何でそうなんだよ、確か今の話題って美砂の片思いの話だよな? え、ちょっと待ってマジわけわからんどゆことどゆこと? 突然の出来事に俺の脳内処理機能が追いつかない。 そんな俺に向かって意地悪く笑って、美砂が言う。 「――――今のが答え。 コレでわかんないとは言わせないよ?」 呆然とする俺の横をすり抜け、ドアの外へと出る美砂。 俺は思わず目で美砂を追い、ドアからひょこっと顔をのぞかせた美砂を目が合う。 美砂は俺に向かってにっこり笑って、そして―――――――― 「・・・もう、我慢しないから。だから、全部全部受け止めてよね――――円」 そういうと、さっさと走って登校してしまった。 残された俺は、しばらくぽけーっと立っているのがやっとだった。 もちろん学校には遅刻、おかげで新田にえらい目に合わされた。 だけど、なんでだろうな。 ――――どうしても、顔がにやけちまうんだ。
https://w.atwiki.jp/negiko/pages/114.html
「・・・さて、経過は順調かな」 モニターから手元の新聞――――麻帆スポ――――に視線を落とし、テーブルの上のコーヒーを飲みながらざっと眼を通して一言。 『魔法』の存在を全世界にバラそうとする超さんと、それを止めようとしたネギ子先生。 その決着は、正直拍子抜けするほどあっけなかった。 超さんがカシオペアに時限発動装置を組み込み、ネギ子先生達がエヴァンジェリンさんの別荘から脱出するタイミングで装置が発動。 ネギ子先生達は学祭から一週間後に飛ばされ、世界樹の魔力供給が途絶えたカシオペアでの時間跳躍は不可能。 よって、ネギ子先生が超さんの計画を阻止することはできず、超さんの計画は無事成功。 そして、超さんは自分のいるべき未来へと戻った。 ――――そう、僕を残して。 最初は、達成感で一杯だった。 『自分達の力で世界を、歴史を変える』――――そんな夢みたいなことを実現してしまったんだから。 でも、超さんがいなくなってしばらくすると、そんな達成感も風船みたいにしぼんで、なぜか満たされない気持ちで胸が一杯になった。 「何でだろうなぁ・・・・・・」 モニターに映し出されている特番を見るでもなく見つめながら、自問する。 わかっていたはずだった。 超さんは“未来”の人間で、僕は“今”の人間。 いつか、お互いがいるべき場所に戻るのが当たり前。 ずっと前から、わかっていた。 覚悟だってできていた。 そのはず――――だったのに。 「どこで、間違っちゃったんだろ」 苦笑いしながら頭を掻いて、自分をごまかす。 でも、やっぱりごまかしきれるわけがなかった。 辛くて、苦しくて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。 どんなに忘れようとしても、浮かんでくるのは超さんの顔ばかり。 そのまま倒れて泣き喚きたくなるのを必死でこらえながら天を仰ぎ、すー、はー、と深呼吸して、なんとか気持ちを落ち着ける。 何度目かの深呼吸を終えて、ふぅ、と溜息をつき、ふと周りを見てみる。 眼に映るのは、散乱したゴミやら機材やら洋服やら。 超さんがいたときはいつもきちんと整理が行き届いていたのに、僕だけになるとすぐコレだ。 『ハカセは無精者だからネ、ワタシがいないとダメヨ』 超さんはいつもそう言いながら、てきぱきと片付けをこなしてくれたっけ。 「・・・そのくせ、自分のこととなると気にも留めないもんだから、こっちがハラハラさせられたもんだけど」 なんて、超さんがいた頃を思い出してると、なぜだかおかしくなってきて、ついつい顔が緩んでしまう。 ああ、茶々丸が初めて動いたときは、二人しておおはしゃぎしたなぁ。 肉まん君Zだったかな、アレが暴走したときは結構本気で焦ったっけ。 そうそう、他には―――――――― 「失礼します、ハカセ」 「――――わたたっ! ど、どうしたんだい? 「・・・いえ、それは私がお聞きしたいのですが」 「な、なんでもないなんでもない、気にしないで」 なんて、柄にもなく思い出にふけっていると、多分全然反応がないのに困って入ってきたんだろう茶々丸の呼びかけに驚いて、思わずコーヒーをこぼしそうになった。 何とかコーヒーをこぼさずにすませ、カップをテーブルに置く。 茶々丸はといえば、あからさまに不審げな表情で僕を見つめている。 たはは、やっぱり柄でもないことはやるもんじゃないね。 「・・・で、何の用かな茶々丸? まさか、ココがバレたとか?」 何気なく聞いてみたものの、もしそうだったら結構シャレにならない。 ここがバレたのなら、魔法先生がやってくるのも時間の問題だろう。 もし捕まってしまえば、一体どうなるかわかったもんじゃない。 「それは問題ありません。 ですが・・・ハカセ、大丈夫ですか?」 「ちょ、ひどいな茶々丸ー、ちょっと驚いただけじゃないか」 ・・・まぁ確かに、ひとりでコーヒー持ってニヤけながらボーっとしてたら怪しいけどさ。 そ、そこは思い出に浸ってたってことで、情状酌量の余地ありだよね? 「いえ、そういうことではなく・・・泣いておられるので」 「・・・え?」 指摘されて、目元に手をやる。 その指が、濡れていた。 そこで初めて、自分が“泣いている”ことに気付いた。 「あ・・・あぁっ・・・・・・ッ!」 気付いてしまったら、もう、止まらなかった。 「あぅっ、ぐっ、うぅぅ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 すぐそこに茶々丸がいるのもかまわずに、思いっきり、泣いた。 多分、超さんがいなくなったことが悲しかったんだと思う。 自分でも断言できないのは――――知らない間に流れ出して、止まらなくなった涙の理由が、自分でもわからなかったから。 「うっ・・・ぐっ・・・・うぅ・・・・・・」 「・・・大丈夫ですか、ハカセ」 どれくらい泣いたのだろう、気がつくと、茶々丸が僕の背を抱いてくれていた。 ぼろぼろの顔のまま見上げた茶々丸の顔は、なぜか、悲しそうに見えた。 そのとき、なぜかはわからないけど、茶々丸の心がわかった気がした。 茶々丸もさびしいんだ――――自分にとっての“母親”が、いなくなってしまったのが。 母親がいなくなって、泣き崩れた“父親”を見るのが。 そこまで考えたとき、ある光景が、唐突に頭の中に浮かび上がった。 『ねぇハカセ』 『なんですか? 超さん』 それは、学祭直前に二人っきりで交わした会話。 『もしこの計画が成功したら、お別れ、しなきゃいけなくなるネ』 『・・・そう、ですね』 答えるのが辛くて、振り返れなくて。 それはきっと、超さんも同じで。 『お別れしちゃったら、「会いたいヨ」って泣いても、もう、会えなくなっちゃうネ』 それなのに、震える声で、努めて明るく。 『だから、そうなる前に、ちゃんと、言っておきたかたヨ』 『・・・・・・』 その場にいるのが怖かった、続きを聞くのが怖かった。 それを聞いてしまえば、もう、戻れないから。 でも、それを止めるだけの勇気もなくて。 そして―――― 『――――今まで、『アリガトウ』・・・それと、『サヨナラ』――――」 『・・・・・・・っ!』 泣いているのが、背中越しにもわかった。 だけど、振り返れなかった。 振り返るのが怖かった。 引き止めても、引き止められないとわかっていた。 だから、黙っていた。 そんな風に思い込んで、逃げた。 振り向くことから。 無理矢理にでも引き止めることから。 今までの関係を壊すことから。 ――――『離れたくない』と、思いを伝えることから。 もう、声も出なかった。 そのままで、また、泣いた。 茶々丸は、ずっとそばにいてくれた。 茶々丸に見守られながら、泣き疲れて眠るまで泣き続けた。 でも、もう超さんには会えない。 会いたいと思っても、もう届かない。 超さんの最後の声が、今でも、胸に響いている――――
https://w.atwiki.jp/negiko/pages/3.html
更新履歴 取得中です。
https://w.atwiki.jp/negiko/pages/48.html
真×刹那♀ 千雨♂×ザジ♀ 和実×さよ
https://w.atwiki.jp/negiko/pages/35.html
分類不可1 分類不可2 分類不可3 分類不可4